「鹿の王(上橋菜穂子)」の感想 七転八倒の息もつかせぬストーリー
作品名 | 鹿の王 |
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著者 | 上橋菜穂子 |
ジャンル | ファンタジー |
出版元 | KADOKAWA / 角川書店 |
評価 | 5点:★★★★★(超おすすめ) |
対象年齢 | 中学生以上 |
おすすめの人 | 同作者の「獣の奏者」や歴史物、魔法の出てこないハイファンタジーが好きな人 |
先日、読みさしの状態で一度記事にしましたが、やっと読み終わりました「鹿の王」。通勤時間と昼休みはほぼこれに消えましたね。読了に要した時間は10時間くらいでしょうか。ボリューミィです。
この本は上下巻の構成で、上巻には「生き残った者」、下巻には「還って行く者」という副題がついています。Amazon Kindle版では上下合本版も発売されており、私が買ったのはそれ。まとめ買いだから安くなるということもなく、普通に上下巻を足した価格だったのですが、巻末に電子版限定の特典として、梶原にきさんの手になるイラスト集がついていました。これは分冊で買ってもつくのかしらん?
閑話休題。
主人公は飛鹿(ピュイカ)という軍用乗鹿を巧みに操る神出鬼没の戦闘部隊「独角」を束ねる精悍な男「欠け角のヴァン」。なんて書き出しをするとさぞ勇ましい戦闘シーンからはじまると思われそうですが、物語が紡がれるのはその「独角」が東方から攻め寄せた大国に討ち滅ぼされた後から。ヴァンは塩鉱山に奴隷としてつながれ、厳しい労働に耐えながら死を待つ過酷な日々を送っています。
そんなおり、塩鉱山を謎の獣が襲撃します。その牙にかかった人間は激烈な病に侵されてしまい、塩鉱山はあえなく全滅。生き残ったのはヴァンと家事奴隷の残した幼児のみ。物語は、彼らの生き様と絆を軸に進んでいきます。
「獣の奏者」と同じく、家族の絆がテーマであるのですが、本作の面白いところはそれに「人と病、そして生命の関係」と、スパイスとして多様な勢力が織りなす政治暗闘劇を加えたところ。東から押し寄せた東乎瑠(ツオル)帝国と辺境伯、それに呑み込まれつつもしたたかに自治を保つアカファ王国、それぞれに生き残りの道を探る各部族に、主を巧みに乗り換えながら知識と技術で安全たる影響力を維持するオタワルの学徒たち。
各勢力の思惑が縦横に折り重なり、二転三転どころか七転八倒するストーリーは息をつかせません。最後の1ページまで次の展開が気になって仕方がなくなります。
とても複雑でとんでもなく長い一作ですが、文句なしにおすすめです。
同じく上橋菜穂子さんの作品、「獣の奏者」の感想も書いておりますのでよろしければこちらもどうぞ。