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Kindleでの電子書籍購入数が200冊を突破したので、SF小説をメインに書評や感想を書き散らします。

「不確定世界の探偵物語(鏡明)」の感想 人類皆シュレディンガーの猫

作品名 不確定世界の探偵物語
著者 鏡明(かがみ あきら)
ジャンル SF
出版元 東京創元社
評価 4点:★★★★☆(かなりおすすめ)
対象年齢 中学生以上
おすすめの人 「アンドロイドの羊の夢(旧題:アンドロイドは電気羊の夢を見るか?)」のようなハードボイルド×SFが好きな人

ようやく看板どおりにSF小説の紹介です。記念すべき第1冊目は「不確定世界の探偵物語(鏡明)」。

タイムマシンが発明されてしまったために、過去改変が頻繁に行われるせいで現実があやふやになってしまった世界を舞台にした探偵小説です。タイムマシンを発明した人物は大富豪となって世界最高のVIPとなっており、そんな彼の思惑に振り回される私立探偵ノーマン・T・ギブソンが主人公。こんな不確かな世界で探偵をするなんてナンセンス極まりないと愚痴りながら事件を解決していきます。

通常のSF小説ではタイムパラドックスは発生しないもの、あるいは発生させてはならないものとして物語が組み立てられますが、この小説の面白いところはそんなお約束を無視してガンガン過去の改変が行われます。目の前に座っていた人物の過去が改変されてしまい、その場でまったくの別人に変異してしまうことなどもしばしば。

そんなんで物語が成立するのかよと心配になりますが、世界や記憶の変化には慣性のようなものが働くためにソフトランディングが可能なようで、たとえ目の前で変異が起きても「あ、こいつ変異してるわー」と認識できるという設定になっています。ややご都合主義的な感じもしますが、そもそもタイムマシンなんてもの自体が荒唐無稽ですから、設定にツッコミを入れても無駄でありましょう。

軽妙ながらも諦観と哀愁を抱えた主人公の造形もさることながら、一見冷徹な完璧美女である相棒のジェニファーのツンデレぶりも魅力的。ルパン三世におけるルパンと峰不二子、こち亀における両津勘吉と秋本・カトリーヌ・麗子のような付かず離れずの絶妙な関係も見ていてそわそわして素敵です。

物語の中途では、コメディタッチな軽さからのシリアス展開にハリウッド的安直さを感じるかもしれませんが、終盤のバタフライ・エフェクト的切なくも甘酸っぱい展開も見ものです。いやバタフライ・エフェクトもアメリカ映画なんですが。

 

不確定世界の探偵物語 (創元SF文庫)

不確定世界の探偵物語 (創元SF文庫)