「ばいばい、アース 全4冊合本版 (冲方 丁)」の感想 剣と魔法のSFハイファンタジー
作品名 | ばいばい、アース |
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著者 | 冲方 丁(うぶかた とう) |
ジャンル | SF、ファンタジー |
出版元 | KADOKAWA / 角川書店 |
評価 | 4点:★★★★☆(かなりおすすめ) |
対象年齢 | 高校生以上 |
おすすめの人 | 上橋菜穂子作品が好きな人。異世界にどっぷりハマって現実を忘れたい人。 |
冲方丁という作家の多芸さには舌を巻きます。出世作の「マルドゥック・スクランブル」はSF、映画にもなった大ヒット作品「天地明察」は歴史小説。そして今回紹介する1冊は、SF要素は含めど基本はハイファンタジー。頭の中がどうなってるのか、一度頭蓋を開いてみてみたい。
本作の舞台はあらゆる鳥や獣が「花」と呼ばれる不思議な世界。剣の素材となる金属さえも果実から生まれ、主たる剣士と絆を結びながら成長していきます。読みはじめのときはあまりにも用語が現実から離れているので、とっつくまでに時間がかかりそう。ライトノベル風の可愛らしい表紙ではありますが、対象年齢を「高校生以上」としたのはそれが理由です。ちょっぴり濡れ場もあるしね。
この世界で生きる人々は、みんな普通の人間ではありません。牙や、鱗や、毛皮を持つ半人半獣がデフォルト。ケモナー大喜びですね。「犬のような顔」だとか、「兎のような耳」といった現実を少しでも想起させる表現が巧妙に避けられているため、登場人物一人ひとりがどんな姿をしているのか想像を巡らせるだけでも楽しいです。
しかし、主人公の少女、ラブラック=ベルはそうした異形の要素を持ちません。牙も鱗も毛皮もないつるつるの肌。つまり、我々の世界でいうところの普通の人間です。普通の人間であるがゆえに、異形がマジョリティであるこの世界ではのっぺらぼうの異形とされてしまいます。そして彼女は、どこかに存在するであろう自らのルーツを探す旅に出るのです。
さて、さきほど主人公のことを「普通の人間」と書きましたが、じつは普通じゃない点がたくさんあります。まず、「石の卵」なるものから誕生したということ。関わる人々から「理由(ことわり)の少女」と称されること。大地との繋がりが希薄なため、すさまじい跳躍力を持ち、自重で家具や床を切り裂いてしまう超重量の大剣「〈唸る剣〉ルンディング」を自在に振り回すこと。
そんなチートスペックな彼女ですから、戦場ではまさに一騎当千。例えるなら漫画ベルセルクの主人公ガッツを美少女に置き換えたような感じでしょうか。大剣を振るって鎧袖一触。竜巻のように敵を薙ぎ払っていくシーンは快感の一言につきます。
まあ、その辺がぜんぶSF的に収束していくオチに向けた伏線なんですけどね。
現実を忘れてどっぷり異世界旅行に浸りたい、そんな方におすすめの1冊でした。