「遺跡の声(堀晃)」の感想 宇宙遺跡調査員の寂寥感に満ちたハードSF
作品名 | 遺跡の声 |
---|---|
著者 | 堀 晃(ほり あきら) |
ジャンル | SF |
出版元 | 創元SF文庫 |
評価 | 3点:★★★☆☆(おすすめ) |
対象年齢 | 高校生以上 |
おすすめの人 | 「星を継ぐもの」や「太陽の簒奪者」のような、すっきりしない物が残るファーストコンタクトものが好きな人 |
SF小説を主体に紹介していくと言いながら、はじめてハードSFのご紹介です。この「遺跡の声」をハードSFと分類するとコアなSFファンからは異論がありそうですけれども。
というのも、この作品では光速の限界が突破できているのです。SFとはサイエンス・フィクションの略でありまして、邦訳すれば空想科学小説。その名の通り、科学をテーマに据え、だいたいの作品では宇宙や時間が重要な要素として扱われます。そうなると切り離せないのが相対性理論の縛りでございまして、光速の壁は超えられるのか、時間逆行はあり得るのかなどといった問題はSF作家ならみな取り扱いに苦労している点ではないかと思われます。
まあ、そんなマニアックな話はさておきまして。
このお話の主人公は愛妻を太陽で亡くしております。妻は優秀な太陽研究者だったのですな。太陽フレアに呑み込まれて死んだ妻の悲しい思い出から逃れたくて、妻が焼かれたであろう瞬間の太陽光に背を向けて銀河辺縁に向けて光速以上の速度で離れつつ、かつて滅びた宇宙種族の文明遺跡を調査しているのです。
うむ、背景からして実に暗い。
そんな主人公の相棒トリニティはなんと結晶生命体。宇宙遺跡の調査行の途中で彗星から拾いだしたものなのでありますが、これもまた種族最期の生き残り。孤独な主人公が孤独な結晶生命体にさまざまな知識や感情を刷り込み「子育て」をしていくさまは、なんというか実に哀れで物悲しい。
本作は連作短編の形をとっておるのですが、どの章も微妙な余韻を残すものばかり。その放り出されぶりが主人公の孤独と相まって不思議な読後感を残します。
宇宙の果てに向けてぽいっと捨てられて、何もない宇宙をただぼんやりと漂ってみたいなあというアレな欲求をおぼえたことのある方におすすめしたい1冊です。