Kindleで本読んどる

Kindleでの電子書籍購入数が200冊を突破したので、SF小説をメインに書評や感想を書き散らします。

「変種第二号(フィリップ K ディック)」の感想 切れ味鋭いオチばかりの傑作短篇集

作品名 変種第二号
著者 フィリップ K ディック
ジャンル SF
出版元 早川書房
評価 3点:★★★☆☆(おすすめ)
対象年齢 中学生以上
おすすめの人 古典SFに手軽に触れてみたい人。星新一のショートショート集のような切れ味のよい短篇集が読みたい人。

フィリップ K ディックといえば、SFファンなら知らない者はいない巨匠中の巨匠です。彼の作品を原作としたヒット映画も多く、ディックの名を知らない人でも「ブレードランナー」、「トータル・リコール」、「マイノリティ・リポート」などの原作を書いた作家だといえばそのすごさが伝わるのではないでしょうか。

ディックの何がすごいかといえば、1950年代から活躍しているにも関わらず、いま読んでも面白さが損なわれていないところです。科学を題材とするSF作品の宿命として、時代を経ると現実のほうが作品の科学技術を追い越してしまって面白さが失われてしまうところがあるのですが、ディックの作品の多くはそうした問題とは無関係に面白さを保っているように感じられます。センス・オブ・ワンダーだけではなく、テーマやストーリー自体に魅力があるんですね。

さて、本作「変種第二号」は短篇集となっております。収録作品は以下の9つです。

  • たそがれの朝食
  • ゴールデン・マン(映画化名「NEXT―ネクスト―」)
  • 安定社会
  • 戦利船
  • 火星潜入
  • 歴戦の勇士
  • 奉仕するもの
  • ジョンの世界
  • 変種第二号(映画化名「スクリーマーズ」)

すべてを紹介していると結構なボリュームとなってしまいますので、私がとくに気に入った2作品について取り上げます。

まず1つ目は「戦利船」。地球人類がガニメデ人と戦争をしている渦中の話です。ガニメデ人から鹵獲した奇妙な船が、どうもタイムマシンらしいと見当をつけます。もしそれが本当であれば苦しい戦況を一気に覆せます。しかし、試しに運転してみるとたどり着いたのはまるでお伽の国。小人に襲われたり、巨人に捕獲されそうになってほうほうの体で逃げ帰ります。果たしてこの「戦利船」の正体とは……。

こんな話なんですが、オチがもうとにかく秀逸。思わず膝をポンと叩きたくなるSF的回答が用意されています。きっと「やられた!」と叫んでしまうことでしょう。

2つ目は表題にもなっている変種第二号。アメリカ合衆国とソビエト連邦の間で起きた泥沼の戦争。その末期が舞台です。こうした設定はいかにも古典SF的ですね。この作品が欠かれたのは1953年ですが、そのわずか三十数年後にソ連が消えてなくなるなんて、どんな作家にも想像できなかったでしょう。

一時は苦境に立たされ、月面基地までの後退を余儀なくされたアメリカ軍でしたが、新兵器「クロー」の投入によって戦況は逆転しています。「クロー」はAIを備えた戦闘ロボットで、地雷のように隠れて通りがかる兵士を待ちぶせたり、きっかけを見つけては地下壕に殺到して立てこもった兵士を虐殺する。自律的な改良が可能で、ソ連軍との戦闘を通じて加速度的に進化を遂げました。

はい、SFファンであればこの辺でピンときますね。「クロー」はターミネーターにおけるスカイネット的な発展をするんです。いかにもいびつな戦闘機械ではなく、人間の子どもや負傷兵に化けた外装を得ており、主であるはずのアメリカ軍でさえもはや「クロー」の全貌がつかめていません。一体誰が「クロー」なのか、疑心暗鬼に陥りながら主人公であるアメリカ軍人と、敵であったはずのソ連兵が繰り広げるサスペンス。そして鮮やかなラスト。うーん、隙がない!

各作品が発表された背景などを編集者が解説したあとがきもじつに興味深く、ディックファンならあとがきだけでも一読の価値があるのではと思います。

変種第二号

変種第二号