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Kindleでの電子書籍購入数が200冊を突破したので、SF小説をメインに書評や感想を書き散らします。

「バビロニア・ウェーブ(堀晃)」の感想 コアなハードSFファンに全力でおすすめする1冊

作品名 バビロニア・ウェーブ
著者 堀 晃(ほり あきら)
ジャンル SF
出版元 創元SF文庫
評価 3点:★★★☆☆(おすすめ)
対象年齢 高校生以上
おすすめの人 もうとにかくカッチカチのハードSFが好きな方

カッチカチやで!(ザブングル)

前回も同じ著者の作品「遺跡の声」を取り上げました。それについてもハードSFと形容しましたけれど、本作はそれ以上にカッチカチのハードSFです。最後まで読み進めるとわかりますが、テーマは宇宙の構造そのもの。銀河はなぜ渦上に回転しているのか、そういったまあ普通の人なら日常的に考えることなどない疑問に大胆なフィクションを用いて回答をしています。

うおお、なんだこれは。くそ面白い。心臓がバクバクする。さすがは日本SF会のアカデミー賞、星雲賞の受賞作品やで。

ちょっと話が逸れるのですが、そんなに面白いと言って持ち上げているのにどうして評価を3点にしているのか、というお話。そのうちこのブログにおける評点の定義をちゃんとまとめとかなきゃなあと思うんですが、これは「私が友だちにおすすめの小説を尋ねられたときにおすすめする順」のつもりでつけています。例えばこの「バビロニア・ウェーブ」や、夢野久作の「ドグラ・マグラ」。ラブクラフトのクトゥルフ神話につらなる物語は個人的には大好きなのですが、とてもとても万人におすすめできるものではありません。

そんなわけで、このブログでは評点が高いほどエンタメ性が高く、読みやすいものだとご理解ください。評点がそのまま私の考える作品の質を示しているものではございません。

閑話休題。

本作の表題でもある「バビロニア・ウェーブ」とは、銀河系を貫き減衰することなく往復を続ける、直径1万2千キロ、長さ5380光年にも及ぶ巨大なレーザー光線です。はじめて観測した宇宙飛行士が、「この光はバビロニア文明よりも古いんだなあ」とつぶやいたところから命名されたもの。なるほど、洒落ておりますな。

バビロニア・ウェーブは太陽系からわずか3光日という近距離で見つかりました。相対位置も出力も一定で、太陽の何十倍ものエネルギーを持つ指向性のレーザーです。エネルギーとしてこれほど理想的なものはなく、バビロニア・ウェーブ内に反射鏡を設置することで人類は無尽蔵のエネルギーを手に入れました。よかった、化石燃料の枯渇も原子力の暴走もなかったんや。

そんな人類薔薇色の時代にありながら、主人公であるマキタはぼんやりとした不満というか、消化不良な気持ちを抱えています。マキタの生まれは人類最初で最後のスペースコロニーです。巨大太陽光発電所として建造され、その後も同種の発電所が無数に製造されるはずでしたが、バビロニア・ウェーブの発見と応用によりそれらの計画は無に帰しました。唯一のスペースコロニーも無重力工場に改造されてしまい、マキタの故郷は宇宙のどこにも存在しなくなってしまいました。国破れて山河ありと申しますが、マキタにはその山河すら存在しない。なんという孤独か。

スペースコロニーの遠心力がもたらす人工重力下で育ったマキタは、地球の重力にもなじめず、それどころか太陽系の重力さえ嫌って太陽系の外側へ、外側へと逃れるように任務を求めます。この辺りは「遺跡の声」にも共通するところですね。筆者自身が地球のしがらみから逃れたいのかもしれません。

そのマキタがバビロニア・ウェーブの間近にある基地に赴任して、研究員たちが行う研究を付かず離れずの立ち位置で眺めながら、まるで意志を持っているようなバビロニア・ウェーブの不可解な挙動に巻き込まれ、そして物語のラストでは希望がかなって人類中最も地球から離れた人間となるのです。

あー、これね。めっちゃぼやかしたよ。ネタバレじゃないと思うよ。

この本は、ハードSFと聞いて何のことやらわからない人や敬遠したい気持ちになる人は手を出すべきではありません。絶対読了せずに放り出します。

逆に言えば、三度の飯よりカッチカチのハードSFが好きな方や、普通の人はまず知らない科学用語がやたらに並んでいる光景を愛する人には全力でおすすめできる1冊です。

バビロニア・ウェーブ (創元SF文庫)

バビロニア・ウェーブ (創元SF文庫)

 

同じく堀晃の「遺跡の声」のレビューは以下からどうぞ。

「遺跡の声(堀晃)」の感想 宇宙遺跡調査員の寂寥感に満ちたハードSF - Kindleで本読んどる